農業も本来は第一次産業として自由競争・市場経済の一翼を担う存在だ。ところが、わが国では、伝統的に農業分野を”票田”−補助金−政治資金の対象として扱ってきた。中央権力にとっていざというときのために好都合な存在にしてしまったのである。このようにして農業団体は補助金獲得をもっぱらの目的とするようになり、政治・行政と表裏一体の構造が築かれてきた。
政官の利権に踏みにじられて生気を失った農業経済を甦らせ活性化する第一歩は、利権に直結する中間団体への補助金を止めることだ。そして、農業法人または株式会社制の全面的導入や行政密着の農協制度見直しによる単位農協の自立を実現することが重要である。
さらに、大幅な税の優遇措置を設けるとともに、農業予算は使い道を指定することなく、農業者数や農地面積など一定の基準の下に地方自治体に配分し、名実ともに民間が行う農業基盤整備等を行政レベルで支援するようにすべきだ。
それにより中央省庁の権限がおよばなくなり、政治との癒着も不要となる。地方レベルの癒着、利権の防止については、会計検査や行政監査権限の強化をはかることで対応する。
農業、とくに米価については対外的配慮も必要であるが、基本は市場の論理を貫くべきだろう。自給率を向上させるという課題も、食管法依存では解決しない。地方ごとに自立した政策をとる体制ができれば、特色ある各地の美味しい自然の産品が外国の安い食品に打ち勝つことは困難ではない。私が視察したスイスの農畜産政策は、そのための手本になる。生きた農業の素晴らしさを取りもどすべきである。
補助金制度と特殊法人・公益法人、農協系列などへの天下りと業界の政治献金制度を抜本的に打破すれば、農業の生産コストは格段に改善する。そもそも気候も土地もよく、技術力もあり、作高もよく、人も勤勉で粗食の日本の農業物価格が欧米の二倍、三倍という実況は、全般的な利権構造に起因しているのである。
”政治農業”をやめて官から離れること、官の管理を止めさせることこそが、農業で流された汗が無駄なお荷物になるのではなく、反対に経済的価値を生み国民生活の源泉として甦る道なのである。
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