平成十二年七月二十八日提出
質問第二号

徳山ダム地域水道事業に関する質問主意書

提出者  石井紘基

徳山ダム地域水道事業に関する質問主意書

 「ウォータープラン21」は、「ウォータープラン2000」よりも水道水の需要見通しを下方修正している。従来の水道水供給事業計画をそのまま遂行したのでは供給過剰となる事業者(自治体)も数多く存在するのではないかと推察される。かつては水道水の需要は必ず増えるものであり、ある目標年次には供給過剰であっても目標年次を繰り延べることで需要は発生するという前提に立っていた。
 木曽川水系水資源開発基本計画が目標年次1985年を2000年に繰り延べたのもまさにその思考法による。しかし2000年までに開発された水道水については実需要は発生しておらず、住民の不満、水道事業者としての自治体の困惑を押し切って水源転換を強行することでわずかな分について需要を作り出しているにすぎない。膨大な「無駄な水」が作り出され、結局は水道事業会計を圧迫するだけのものとなっている。
 水道事業経営の健全化の見地から、以下質問する。


  厚生省が、水道事業者の水道整備事業に補助金を出す際の基準をお答え願いたい。
 ア、対象事業者 イ、対象事業内容 ウ、補助金支給内容 エ、補助金支給が適正であるかどうかのチェック体制
  厚生省は、「ウォータープラン21」で示されている数値と、各水道事業者の水道水供給計画の根拠となっている数値との異同について、調査をしているか、お答え願いたい。
 この両者の数値が大きく違う場合、水需要見通しが大きく異なってくることになる。水源投資・設備投資が過大となって水道事業会計を圧迫するおそれのあるときには厚生省としてはどのような指導を行うのか、お答え願いたい。
  供給設備過剰などで水道事業経営が行き詰まった自治体(事業者)が出たときの厚生省としての対応はどのようなものか、お答え願いたい。


  愛知県企業庁は県内市町村水道事業者に供給している水道水料金を17・8%値上げする案(今年と2002年の2回に分けて)を3月の愛知県議会に提案している。新聞報道(朝日新聞3月6日)によるとさらに2004年度と以後四年ごとの値上げは避けられないという。1999年度から2003年度までの間に収益が二割ほども増加するという大変に強気の予想の下での試算をもってしても、である。こうした事態を招いたのは、水需要が伸びず収益が増加しないのに水源施設建設費支払いが増加したからに他ならない。この値上げは市町村水道会計を圧迫し、結局は住民に転嫁することになる。
 この実態について、厚生省はどのように認識しているか。
  名古屋市は、現在確保している長良川河口堰の水道水源は使う計画がなく、昨年秋に発表した計画によれば2010年段階では導水計画も存在しない。一方、名古屋市の人口はすでに頭打ちであり、客観的にはすでに確保した水源の需要も不発生に終わるであろうと予測される。にもかかわらずさらに徳山ダムの水を水源として確保(2トン/秒=日量17万トン)するとしている。こうした計画は水道事業の健全な経営にとって重大な危惧を抱かざるをえないが、厚生省の認識をお答え願いたい。


 岐阜県における徳山ダムによる開発水の供給地域とされる大垣地域は、地下水の豊富な場所として知られている(3月5日放送NHK大河ドラマでも紹介)。
 この豊富な地下水を工業用水としてふんだんに利用した繊維工業が盛んな頃(1960年代から70年代前半)、大垣市中心部の地下水の静水位が下がり地下水の危機が取りざたされたことがあった。しかし工業用水汲み上げが大幅に減少した最近の静水位は上昇し、中心部の家庭の涸れていた井戸が復活してきている。1994年の大渇水時には、揖斐川表流水は涸れた(徳山ダムが完成し適正に運用されていたとしてもなお涸れたであろうという建設省も認めるシミュレーションがある)が、大垣地域の地下水を水源とする水道水供給には何の支障もなかった。大垣市内の自噴水も涸れなかった。

  この地域の水道水について、地下水の水源を放棄して揖斐川表流水に転換すべきであるという意見があるが、厚生省はいかが考えるか。地下水源を放棄すべきであるとするなら、その現在的(1960年代、70年代に地盤沈下があったという昔の話ではなく)根拠は何か。根拠数値を挙げて説明されたい。
  三月一○日の岐阜県議会で、大垣地域の五町(神戸町、輪之内町、安八町、墨俣町、揖斐川町)の町長は徳山ダム開発水を水道水原水として買う意思のないことを表明したということが明らかにされた。他の市・町でも、「徳山ダムの水を水道水源として買う必要がある」旨を具体的な需給見通し及び水道事業経営面からの説明とともに住民に表明があったとは耳にしていない。
 (一) 吉田・神戸町長は「水道水の需要については、押しつけられるものではないと聞いている。必要のないものはほかから買う考えは今のところない」と町議会で答弁している。右五町については、徳山ダム開発水を水道水源として買う予定はないものとみなしてよいか、厚生省の見解をお答え願いたい。
 (二) 右五町以外の一市八町の中で、明確な数字・根拠を挙げて「徳山ダムの水が必要である」旨を明らかにしているところはあるか、あればその数字・根拠とともに明らかにされたい。
  揖斐郡揖斐川町では、1997年現在給水人口は11627人であるが、27・5億円をかけて第4次拡張計画を実施し、2005年を目標年次として16600人分の供給能力を確保しようとしている。
 (一) 厚生省はこの計画に対して、直接又は間接に補助金等を交付しているか。していればその金額を年度別に示されたい。
 (二) 厚生省としては、揖斐川町の給水人口は2005年には何人になると予測されるか。また2018年には何人になると予測されるか。個別市町村の予測が存在しないのであれば、ウォータープラン21を前提として試算した数値を出されたい。
 (三) この計画では、2005年の一人一日最大給水量が609gとなっている。厚生省としては、2018年にこの地域の一人一日最大給水量は何gであると予測するか。ウォータープラン21を前提としての質問者の試算では530g前後となる(有収率93%、負荷率75%として)がいかがか。
 (四) 揖斐川町では第四次拡張計画によって十分すぎるほどの水道水の供給能力を確保しており、右岐阜県議会で揖斐川町長の発言(「町として必要のないものは買うことを考えていない」)を踏まえれば、揖斐川町には徳山ダムからの給水はないものと認識してよいか。
  大垣市では、1997年現在給水人口は143468人であるが、164億円をかけて第四次拡張(変更)計画を実施し、2003年を目標年次にして158100人分の供給能力を確保しようとしている。
 (一) 厚生省はこの計画に対して、直接又は間接に補助金等を交付しているか。していればその金額を年度別に示されたい。
 (二) 厚生省としては、大垣市の給水人口は2003年には何人になると予測されるか。また2018年には何人になると予測されるか。個別市町村の予測が存在しないのであれば、ウォータープラン21を前提として試算した数値を出されたい。
 (三) この計画では、水源はすべて地下水となっているが、この水源計画は適正であると認識しているか、お答え願いたい。
 (四) 以上を総合して、大垣市に2018年までに新たな水源が必要となる根拠はあるか。あるとしたらその根拠を数値を挙げて明確に示されたい。
 (五) 大垣市は「徳山ダムの水を水道水源として必要としている」旨を正式に表明しているか。表明しているとすればどういう根拠に基づいているか、明らかにされたい。
 (六) 水資源開発公団が示す大垣地域の2018年時点での予測である、
 ア、給水人口44万人 イ、1人1日平均給水量512g ウ、負荷率70%(大垣市の過去10年の実績は80%から85%でありここ数年は漸増傾向にある)という数値は、厚生省の認識と一致しているか。
 一致していない場合は厚生省としての認識の数値を示されたい。個別地域の試算が存在しない場合はウォータープラン21に基づく試算を示されたい。
 一致している場合は、ウォータープラン21の根拠数値との違い、その原因について明確に示されたい。

 ところで、建設省は東海地方の「水余り」論に対して「この地域は利水安全度が低いからそれを向上させるために新たな水資源開発が必要」と言い始めている。
 「渇水対策」というなら、どういう根拠でどれだけの水が必要なのかを明確にするとともに、アロケーション変更も含めて誰がどれだけの水を確保し負担するのか、を明らかにすることが必要である。

  厚生省としては、東海地域の既存の水源の利水安全度についていかに認識しているか、お答え願いたい。また利水安全度の向上の具体的方策について如何なる所見を持っているか、お答え願いたい。
  名古屋市が徳山ダムの新規利水分を3トン/秒返上したときは(1996年秋に表明)その分を「治水」の中に繰り入れてアロケーション変更を行った。その結果岐阜県は負担が増えた。しかし岐阜県における徳山ダムの水の供給予定地域に渇水被害があったことは一度もない(1994年の全国的大渇水のときも何の「被害」も無かった)。東海地域で「渇水」が問題になりうる地域と徳山ダムの治水分負担を行う自治体とは重ならない。厚生省としてはこの地域での「渇水対策」分の負担は、どの自治体あるいは省庁が負うべきであると考えるか、お答え願いたい。
  仮に徳山ダムによる新たな水源開発の必要が、建設省の言うように東海地域の利水安全度の向上であるとするなら、徳山ダムによる開発水を「利水安全度の低い」既存水源に依拠している地域に供給しなければならないことになる。とすると大がかりな導水設備が必要となり、水単価は非常に高いものとなる。「渇水対策」としてかかる高価な水を確保することが水道事業者の負担で進められるとすると、水道事業会計に壊滅的ともいえる打撃を与えることになると思われる。厚生省としては水道水源における「渇水対策」とその負担をいかに考えるか、お答え願いたい。

 右質問する。